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日本のボッシュ・グループ
ボッシュ・グループ:アニュアルレポート2024

日本におけるイノベーション

2025年5月8日時点で、本国のアニュアルレポート2024で発表された記事の翻訳です。
原文は以下をご覧ください。

ボッシュ・グループ:アニュアルレポート2024 ~日本におけるイノベーション~

日本で二番目に大きな都市、横浜。高層ビル群の上空に朝日が昇る頃、街の中心部に位置する交差点はすでに多くの人々が行き交い、次々と地下鉄の入口へと向かっていきます。

多くの人々は、世界でも屈指の効率を誇る公共交通機関である電車を利用します。混雑した車内も、驚くほど静かで落ち着いています。日本では「敬意」と「礼儀」が、深く根付いた価値観として尊ばれています。

経済的に重要な都市:ボッシュは2024年、横浜市に日本法人の新本社を竣工
経済的に重要な都市:ボッシュは2024年、横浜市に日本法人の新本社を竣工

通勤途中、多くの人が小規模な飲食店に立ち寄り、タッチパネルでコーヒーや抹茶ラテを注文しています。市街地の高層ビルに設置されたデジタルサイネージの横を通り抜け、流れるように人々は最先端のオフィスビルへと足を進めていきます。そのひとつが、2024年に完成したボッシュの新本社です。

独自の立地

新オフィスには、研究開発、管理、営業、マーケティングなどを担う約2,000名の従業員が勤務し、自動運転や運転支援システムといった未来を切り拓く最新技術の開発を推進しています。ボッシュは日本国内で約6,300名の従業員を擁しており、そのうち約1,800名が研究開発に従事しています。

この新本社は、建築とデザインの両面において、ボッシュのグローバル拠点のなかでも際立った特徴を有しています。淡い色合いの木材パネル、豊富な植栽、そしてアクセントとなる鮮やかな色使いが調和し、現代的でありながら温かみのある空間を演出。そこには、日本の伝統的な要素も随所に感じられます。広いガラス窓からは自然光がたっぷりと差し込み、工夫を凝らしたコラボレーションスペースを明るく照らします。

ボッシュ株式会社代表取締役社長のクリスチャン・メッカーは、新本社について誇らしげにこう語ります。「新拠点に約390億円を投資することで、ボッシュは日本市場に対するコミットメントを改めて示しています」

クリスチャン・メッカー(ボッシュ株式会社 代表取締役社長)

私が日本でのビジネスに魅力を感じる最大の理由は、やはり“人”です

クリスチャン・メッカー(ボッシュ株式会社 代表取締役社長)

ボッシュは114年にわたり、日本でビジネスを展開しています。現在では、国内にある10ヶ所の製造拠点で、自動車市場向けの横滑り防止装置ESCや電動ブレーキブースター「iBooster」など、さまざまな市場や顧客に向けた製品・ソリューションを提供しています。

「これまでは、東京・横浜の首都圏にまたがる8つの拠点に従業員が点在していました」とメッカーは説明します。新本社建設の目的は、拠点の集約により、各事業部門のエキスパート同士が密接にコラボレーションできるようにすることでした。

「より迅速に、より効率的に、そしてよりクリエイティブに」、とメッカーは説明します。

そして移転から半年を経て、メッカーはこう語ります。「私たちは、確実に正しい方向へ進んでいます。チーム同士の連携が進み、今ではお客様のニーズにより的確に応えるソリューションの開発に取り組んでいます」

約2,000人の従業員が、日本の新本社で研究開発、管理、営業、マーケティングなどの業務に従事
約2,000人の従業員が、日本の新本社で研究開発、管理、営業、マーケティングなどの業務に従事
現地では、専門家たちが自動運転や運転支援システムといった未来の技術を推進
現地では、専門家たちが自動運転や運転支援システムといった未来の技術を推進
建築とデザインの観点においても、日本の本社は世界中のボッシュの中でもユニークな存在
建築とデザインの観点においても、日本の本社は世界中のボッシュの中でもユニークな存在
ここでは、現地のお客様のニーズに最適に応えるために、イノベーションに重点が置かれています。
ここでは、現地のお客様のニーズに最適に応えるために、イノベーションに重点が置かれています。
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2024年10月にボッシュ日本法人の社長に就任する以前、機械系エンジニア出身のクリスチャン・メッカーは、東アジア・東南アジア地域におけるボッシュのモビリティ事業を統括していました。

フランス出身の彼にとって、日本はもはや「第二の故郷」となっています。妻と3人の子どもたちにとっても同様です。日本での勤務経験は通算で約9年におよび、ボッシュのさまざまな役職を歴任してきました。

重要な市場

日本は、アメリカ、中国、ドイツに次ぐ世界第4位の経済大国です。「日出ずる国」として知られる日本は、ロボット工学、半導体技術、AI(人工知能)といった先端技術分野に加え、エレクトロニクスや機械工学の分野においても世界をリードしています。また、日本には世界最大の自動車メーカーおよび二輪車メーカーが本拠を構えています。

世界第4位の経済大国、日本
世界第4位の経済大国、日本

「こうした要素によって、ボッシュは日本市場に魅力を感じるとともに重要視しているのです」と、クリスチャン・メッカーは語ります。「日本の自動車メーカーは、世界の自動車市場の約30%を占めています。当社のお客様であり、世界各地でリーダー的な存在です」

メッカーは、現地のお客様のニーズに的確に応えるためには、現地に拠点を持つことが非常に重要であると考えています。厳しい経済環境や自動車生産台数の減少といった状況にもかかわらず、ボッシュは2024年、日本における売上高をわずかながら伸ばすことができました。

事業領域の拡大

将来有望な開発プロジェクトのひとつである「ビークルモーションマネジメント」:車両の動きを個々のニーズにあわせてカスタマイズすることが可能
将来有望な開発プロジェクトのひとつである「ビークルモーションマネジメント」:車両の動きを個々のニーズにあわせてカスタマイズすることが可能

日本におけるボッシュの売上の約90%は、モビリティ事業によるものです。その中には、ビークル モーション、パワー ソリューション、クロスドメイン コンピューティング ソリューション、モーターサイクル&パワースポーツなど、多岐にわたる製品・ソリューションが含まれています。

この分野において、ボッシュにとって鍵を握るのは「イノベーション」です。メッカーが言及したビークル モーション事業部での開発プロジェクトは、まさにその一例であり、車両の走行特性をユーザーごとの要望に合わせてパーソナライズすることを可能にするものです。

ボッシュは、事業セクター間のバランスをより良くすることを戦略的な目標として掲げており、日本も例外ではありません。多くの産業を擁する日本は、ボッシュの事業分野を拡大するための大きな可能性を秘めています。例えば、ジョンソンコントロールズと日立からの、住宅および小規模商業施設向けのグローバルな暖房、換気、空調(HVAC)事業の買収計画は、アジア太平洋地域でのビジネス展開に大きなチャンスをもたらします。

「長期的には、グローバルライセンスブランドとして日立を活用しつつ、同時に日本におけるホームコンフォート部門の存在感も確立していきます」とメッカーは述べています。買収の完了は、すべての独占禁止法規制当局の承認を得た後、2025年半ばを予定しています。また、ボッシュ・レックスロスの事業拡大も計画しています。

アジア太平洋地域においても大きなビジネスチャンスが見込まれるジョンソンコントロールズと日立からのHVACソリューション事業の買収計画
アジア太平洋地域においても大きなビジネスチャンスが見込まれるジョンソンコントロールズと日立からのHVACソリューション事業の買収計画

メッカーは、オフィスエリアを出て、ビークルモーション事業部のテストラボに向かいます。丸テーブルやカラフルな椅子が並ぶアトリウムを通り抜け、業務に集中している従業員たちを横目に見ながら、明るく照らされたクリーンルームにたどり着きます。作業台では、従業員がESCモジュールの試作品をテストしています。メッカーは顕微鏡をのぞき込み、プロジェクトについて従業員と積極的に対話し、「私が日本でのビジネスに魅力を感じる最大の理由は、やはり人です」と強調します。

信頼に基づく関係性

クリスチャン・メッカー(右)にとって、ビジネスにおける成功の秘訣は、信頼、尊重、そしてオープンな姿勢
クリスチャン・メッカー(右)にとって、ビジネスにおける成功の秘訣は、信頼、尊重、そしてオープンな姿勢

メッカ―は、ボッシュの持つ革新的な強みと市場での確固たる地位により、自動車メーカーがボッシュを新製品やソリューションの理想的なパートナーとして評価していることに気づいたと言います。「日本では、少しの忍耐があれば、深い信頼関係を築き、未来の進展に不可欠な新技術を共同開発することができます」と語ります。

日本での経験を通じて、彼は異なる文化を理解し、尊重することを学び、その微妙な違いに敏感になったと語ります。「国が違えば、考え方も異なります。技術の開発方法もさまざまであり、正しい解決策が1つであるわけではありません」

窓の外からは、聞き慣れたバイクの音が響いています。日本は、世界で最もバイクでの移動に親しんでいる国の一つです。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、いずれも世界的なバイクメーカーで、グローバルビジネスを日本から展開しています。そして、彼らはみな、ボッシュと密接に連携しています。

有望な事業分野

ボッシュのモーターサイクル&パワースポーツ事業部長であるジェフ・リアッシュは、大きな喜びを感じています。この事業部門のグローバル本部は、横浜の新本社から数キロの距離に位置しています。そこでは約240人の従業員が、ABS、モーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)、レーダーベースの安全運転支援システムといった二輪車向けアシスタンスシステムを開発し、グローバル市場に向けて展開しています。

「私たちは、ドイツ以外に本部を構える、ボッシュで唯一の事業部門です」とリアッシュは語り、グローバル本部内の作業場でバイクのディスプレイを注意深く見ながらこのように続けます。「日本に本部を構えることは、私たちの二輪事業にとって多くの利点があります。主要なバイクメーカーに近接しており、彼らの要望に最適な形で応えられるからです。」

ボッシュのモーターサイクル&パワースポーツ部門の責任者を設立時から務めているジェフ・リアッシュ(右)
ボッシュのモーターサイクル&パワースポーツ部門の責任者を設立時から務めているジェフ・リアッシュ(右)

モーターサイクル&パワースポーツ事業部門は、2015年の設立以来、非常に順調に成長してきました。経済環境が不安定な中にあっても、2017年から2024年の間に売上高は年平均約12%の伸びを記録し、同期間中の世界の二輪車市場における成長率の1〜2%を大きく上回る実績を上げています。

成功の秘訣について、リアッシュは「当社のノウハウとソリューションにより、お客様の様々なニーズに的確にお応えできる、他に類を見ない企業であると自負しています」と語りました。

2024年後半には、新世代のレーダーセンサーによる6つの新たな二輪車向け安全運転支援機能を発表しました。これにより、二輪車の安全性と快適性はさらに向上します。今後もさらなる革新が見込まれ、バイク愛好家にとって期待が高まる展開です。リアッシュは続けて「私たちの目標は、ライディングの楽しさを高めながら、必要不可欠な安全機能を提供することです」と述べます。

彼自身も、オーストラリアの実家の農場で子供の頃からバイクへの情熱を育み、今でも自らテスト走行を楽しむほどの愛好家です。技術の進展にも強い意欲を示しており、「二輪車でも、安全に作動する自動緊急ブレーキを実現できない理由はない」と、将来のビジョンを語っています。

緊密なパートナーシップ

ボッシュの高い技術革新力は、多くの顧客から高く評価されています。カワサキモータース株式会社 執行役員 モーターサイクル(MC)ディビジョン長である甲斐 誠一氏は、ボッシュのエンジニアと意見を交わしながらこう語ります。「私たちは長年にわたり、信頼関係に基づいた緊密かつ良好な協力関係を築いてきました。ボッシュは日本からグローバルにモーターサイクル事業を展開しており、日本の二輪車メーカーやライダーのニーズを深く理解しています」

甲斐氏は、ボッシュの大きな強みは、顧客ごとのニーズに応じた技術やソリューションを開発できる点にあると述べています。ハイパフォーマンスと先進技術の象徴ともいえるカワサキ「Z H2」の前でしゃがみ込み、車両をじっくりと観察します。このスポーツバイクには、ボッシュ製のコンポーネントとシステムが数多く搭載されており、中でもアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)と複数のセンサーを組み合わせたモーターサイクル用スタビリティコントロールシステム(MSC)は、様々なライディングモードを実現しています。

カワサキモータース株式会社 執行役員 モーターサイクル(MC)ディビジョン長:甲斐 誠一氏(右)
カワサキモータース株式会社 執行役員 モーターサイクル(MC)ディビジョン長:甲斐 誠一氏(右)

二輪車向け安全支援システムの基盤となるABSユニットは、横浜ではなく栃木工場で製造されています。これは、車両向けの横滑り防止装置ESCや電動ブレーキブースターのiBoosterと同様です。

東京の北に位置するこの工場へは、日本が誇る世界有数の高速鉄道である新幹線で約2時間。到着すると、都市部とはまったく異なる景色が広がります。日光白根山を背景に、昔ながらの日本家屋が点在する、のどかな田園風景が広がっています。

模範的なものづくりの現場

高品質、低不良率:ビークル モーション事業部の栃木工場では、信頼性と精度の高さを最重要視
高品質、低不良率:ビークル モーション事業部の栃木工場では、信頼性と精度の高さを最重要視

1990年に建設された栃木工場の生産現場は、伝統と最新技術が共存しています。最先端のロボットが部品を生産ラインへと運ぶ一方で、そのすぐそばで長年活躍している設備が今も変わらぬ精度で稼働を続けています。

「日本はデジタル化、自動化、ロボティクスの分野で優れた強みを持っています」と話すのは、iBoosterの新しい生産ラインを歩く長谷川 真吾工場長。「私たちの組立工程にもその強みが表れています。例えば、iBoosterを生産するこのラインは、ボッシュ全世界の拠点の中でも最も自動化が進んだラインの一つです」と、ロボットがiBoosterのハウジング部品を溶接する様子をガラス越しに見守りながら長谷川は説明します。

最新のiBooster生産ラインのロボットを見つめる、栃木工場 長谷川 真吾工場長
最新のiBooster生産ラインのロボットを見つめる、栃木工場 長谷川 真吾工場長
栃木工場では、アジア太平洋市場向けにABS、横滑り防止装置ESC、電動ブレーキブースター「iBooster」などを製造
栃木工場では、アジア太平洋市場向けにABS、横滑り防止装置ESC、電動ブレーキブースター「iBooster」などを製造

栃木工場は二輪向けABSのリード工場であり、インドやタイの工場に生産技術や工程面でのサポートを行っています。「栃木工場のエンジニアは世界中の製造拠点にも定期的に出張し、現地での知見共有や、サポートを行っています」と長谷川は語ります。日本の工場はその高品質と低不良率で知られています。その理由について、「ひとつは、現場の従業員の規律、モチベーション、信頼性の高さ。そしてもうひとつは、日本の『ゲンバ(現場)』重視の考え方に根差した継続的な改善を促進する文化にあります」と、長谷川は説明します。実際に現場に足を運び、プロセスを観察し、課題を特定し、改善につなげる、それが日本のものづくりの特徴です。「マネージャーが定期的に従業員のいる現場を訪れ、実際の業務プロセスを確認しながらオープンな対話を重ね、現場の課題や可能性について理解を深めています」と説明します。

栃木工場はこれまでに数々の重要なマイルストーンを重ねてきました。2025年はさらに大きな節目を迎えます。現在、第9世代の横滑り防止装置ESCを生産していますが、2025年6月からはドイツのブライヒャッハにあるリード工場から新たな第10世代のESC生産ラインが栃木工場に導入される予定です。「2026年春には、第10世代ESCの初めてのロットをここで生産する予定です」と、期待のこもる表情で長谷川は語ります。この最新鋭で自動化された生産ラインにより、生産量を倍増させる見込みです。エンジニアたちはすでにその切り替え準備を進めており、新たな生産環境に慣れるためにバーチャルリアリティを活用したトレーニングも開始しています。

バーチャルリアリティ(VR)の活用:ソフトウェアと最新のゴーグルを活用し、デジタル空間上で新しい生産ラインを事前に体験・学習する栃木工場のエンジニア
バーチャルリアリティ(VR)の活用:ソフトウェアと最新のゴーグルを活用し、デジタル空間上で新しい生産ラインを事前に体験・学習する栃木工場のエンジニア

一日の仕事を終えるころ、雪化粧した日光白根山に夕日が差し込み始めます。ここ栃木では、世界の大都市圏人口ランキング1位の東京の喧騒とは異なる、穏やかな時間が流れています。長い一日の仕事終わりには、ボッシュの従業員たちが近くの居酒屋に足を運び、座敷で刺身や野菜、食事を囲みながら、日本酒を酌み交わします。これもまた、日本の姿なのです。

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