日本とASEANのエンジニアを育てるトレーナーから見たボッシュの人材育成の未来
#エンジニア #働き方 #ビジョン・ミッション
ボッシュでエンジニアの経験を経て、エンジニア向けの研修トレーナーとしてキャリアを重ねてきた、パワートレインソリューション事業部の和田 直也。国内のみならずASEAN各国のエンジニアに対しても学びのきっかけをつくる和田が、ボッシュのエンジニア像や人材育成の根幹にある考え方について語ります。
「エンジニアに求められる思考の基礎」を発見したトレーニング
2009年にボッシュに入社して以降、燃料バルブの設計開発担当、そして社内のエンジニア向けの研修トレーナーのキャリアを築いてきた和田 直也。2020年現在は、国内だけでなくASEANの従業員のトレーニングにも携わっています。
エンジニアとしてボッシュに入社した和田ですが、学生時代は異なる領域の研究に励んでいました。当時就職先のビジョンは定まっていませんでしたが、フランス留学をきっかけに、自分が理想とする働き方のイメージが少しずつ見え始めました。
和田 「大学で研究していた材料工学や電子顕微鏡の分野は、国際的にみても日本は影響力があり、海外との交流機会が多くありました。フランスでの約1年の留学を経て、ヨーロッパの研究者たちは、心や時間に余裕を持ちながらアウトプットや成果を出しているように見えました。私も彼らのように、ワークライフバランスが取れる職場で結果を出していきたいと思いました。
人に優しい文化や、これまで学んだ理系科目の知識を生かせる開発・生産機能のあるヨーロッパ企業を中心に企業を探していくうち、自然とボッシュに出会いました」
ボッシュ入社後、和田は大手電機メーカーとの合弁企業の工場でエンジニアとしてキャリアをスタート。複数企業のメンバーと共に、エンジニアとして実験業務やコスト改善業務に携わることになりました。
和田 「学生時代は、エンジニアは難しい方程式が解けて、複雑な物理モデルの運動方程式を構築できて、発想力が豊かな人しかできない仕事だと思っていました。自分は学問の分野で優秀だとは思っていなかったので、はじめは続けていけるか不安でした。でも、ボッシュであれば、もしもエンジニアに向いていなかったら、他の部署に異動できるだろうと考えていました(笑)」
そんな和田のエンジニアに対するイメージを大きく変えたのは、社内トレーニングで出会ったDRBFM(Design Review Based on Failure Mode)の考え方です。DRBFMとは、設計や環境の変更・変化に着眼し、問題を未然に防止する活動です。和田はこのDRBFMの実践を通じて、全体像を把握することや、目的を明確にすることの重要性を学びました。
和田 「現場で必要なのは、複雑な知識やスキルよりも、物事の捉え方だと気付きました。また、DRBFMの検証を通じて、自分の考えたアイデアをわかりやすく伝えるためのコミュニケーションも重要だと知りました。この気付きがその後の仕事を楽しく、やりがいのあるものへと昇華してくれたと思います」
和田はトレーニングを通じてボッシュにおけるエンジニア像をつかみ、自身に必要なスキルを整理していったのです。
「橋渡し」を担うボッシュのエンジニアに求められる能力とは?
ボッシュのエンジニアの役割を説明すると、就職活動中の学生からは「エンジニアの新しいイメージが持てた」と新鮮に捉えてもらえることも、しばしばあります。大学における研究と企業での製品開発。延長線上にあるように見える二つの領域は、実は大きく異なるものです。
和田 「日本のボッシュでもいわゆる研究を担当するチームはありますが、そういったポジションに就く人は極めて限られています。どういうエンジニアになりたいかにもよりますが、日本のボッシュでは、量産品の開発を担当しているエンジニアが最も多いです。そういった意味で、他の企業のエンジニアと業務内容に大きな違いがあるかというとそうではなく、重なる部分も多いと思います」
実際にエンジニアとしての職務経験もある和田はボッシュのエンジニアの存在価値を次のように説明します。
和田 「エンジニアの仕事は何か?と考えると大きくは二つ。お客様の『課題発見』と『問題解決』だと考えています。日本のボッシュのエンジニアの仕事は製品システムを構築すること、そして実際にモノを作る人とお客様の橋渡しをすることです。
そのため、“ブリッジ・エンジニア“や”ブリッジ・システム・エンジニア“と呼ばれますが、ここで特に必要なのは『物事の捉え方』と『コミュニケーション』だと私は思います」
グローバルで開発拠点があるボッシュでは、このブリッジ・システム・エンジニアの活躍こそが開発の礎となります。
和田 「お客様の本質的な課題を把握し、開発の方向性を正しく導く。このシステム設計の最初のプロセスが最終的な製品のクオリティを決めるので、日本のボッシュのエンジニアは非常に責任のある仕事で影響力を持つ存在です。
課題をどのように捉えて、グローバルのプロジェクトメンバーとコミュニケーションをとっていくか。簡単なことではありませんがこの責任こそが、“ブリッジ“のやりがいでもあります」
お客様の情報を翻訳して、ただ伝えるだけの作業になってしまうとプロジェクトを進めることが困難になる、と和田は自身の経験も踏まえて振り返ります。
和田 「ボッシュはドイツやインド、ベトナムなどに開発拠点がありますが、私たちのお客様は日本にいます。お客様のニーズに合った製品を生み出すためには、お客様と開発現場が正しく意思疎通できるよう、エンジニアが解決の糸口を探る必要があります。
お客様のリクエスト通りの情報を伝達するだけになってしまうと、両者の板挟みになってしまい、私も最初は大変な思いをすることが正直ありました」
だからこそ、製品の全体像を把握することはもちろん、目的、理想の姿を描き、現状を分析して理想との間にあるギャップをどのように埋めていくのか、どのように製品に落とし込んでいくかを思考する必要があります。
このようなエンジニアとして重要な思考のステップをトレーニングによって体系的に学んだことで、日々の業務に活かすことが出来た和田。今度は、トレーナーとして周囲にその考え方を還元していくことに関心を持つようになります。
和田 「数学や物理の知識に自信がなくても、モノづくりで社会に貢献したい……私のようなエンジニアが、方法論を活用しながら楽しく働ける職場にしたい。そんな願いから2017年より専任部署へ異動し、エンジニアに対するトレーニング業務を主軸に据えるようになりました」
“Stay lazy”を目指し、各国のエンジニアたちと向き合うトレーニング
2020年現在、和田はエキスパートエンジニアメンバーを対象に、トレーナーとしてワークショップの実践や、エンジニアリングメソッド、研修メソッドの開発を担っています。マレーシアやタイ、ベトナムといったASEANを中心に、半年から2年という長期スパンでトレーニングを実施。和田はトレーナーとしても、一人ひとりとのコミュニケーションを大切にすることを心がけています。
和田 「トレーニング参加者の国籍や人種、文化的背景に捉われず、個々の考え方や生活環境に配慮しています。トレーニングの目的は、あくまでトレーニング後の主体的な行動のきっかけづくりです。そのためには、私が伝える内容に納得してもらえなければなりません。どのように伝えれば響くのか、行動につながるのかを常に考えています」
新型コロナウィルスの影響が出る前は、ほぼ毎月海外現地に赴き、できるだけ対面で会話する時間を大切にしてきたという和田。実際に現地のエンジニアが取り組んでいる課題をもとに、機能や目的の定義、現状分析などのフォローやレビューをしてきました。
トレーナーとして業務を続ける和田にも、ドイツ人の先輩トレーナーがついています。そのトレーナーから言われた“ステイ・レイジー(Stay lazy)“というワードが、現在の和田のトレーナーとしての在り方のベースになっています。
和田 「私が仕事をもっとできるようになれば、先輩トレーナーはコーヒーを飲みながら優雅に仕事ができる。だから、1日で飲めるコーヒーの量が俺のKPIだって、その人は言います (笑) 。
ただトレーナーの立場の人間がlazy(怠け者)な状態でいることは、実際とても難しいです。それにはトレーニーが何かを身に付けることだけでは足りず、自らそれ以上のことを学びとろうとする主体性が必要です。それが本質的に身になるトレーニングの根幹なのかもしれません」
ときには実践での自分の姿や言葉を通じて、次の指標を見せてくれるトレーナー。その存在により、和田は今も次の目標に向けて学び続けています。そしてその学びは、和田がトレーニングを実施するトレーニーにも少しずつ受け継がれています。
和田 「今はコロナ禍で、トレーニングをしている各国への移動が難しくなりました。顔を見ての直接コミュニケーションをとる機会は少なくなってしまいましたが、ベトナムやインドの現場では、それぞれが自主的な判断で活動をリードしてくれていて、とても嬉しいです。そうして彼らが動いてくれることで、私も“lazy”でいられますから」
思考のプロセスを可視化することで描ける、技術発展と人材育成の未来
こうしたトレーニングを通じてお互いをアップデートしあうボッシュの文化は、今後の先端技術を活かしたモノづくりにも役立っていくと和田は考えています。
和田 「今後AIはボッシュにとっても重要なテクノロジーになっていきます。AIによる自動運転機能が備わった自動車や、ソフトウェアが一般的になることで、エンジニアの開発のなかにもAIが入ってくることなります。そうしたときに、私たちエンジニアはその製品の品質をどのように保証すればよいのでしょうか。
AIの課題は、思考のプロセスがブラックボックス化することです。しかし、私たちはAIを活かした製品を開発するならば、その設計の根拠を論理的に説明しなければなりません。しかし、その明確な答えはまだないのが現状で、今後考えていく必要があると考えています」
この大きな課題に向き合うプロセスにおいても、ボッシュのメソッド開発力が活きる部分があるのではないかと和田は考えています。
和田 「ボッシュの研修やトレーニングは、具体事例をもとに抽象的な概念としてまとめ、そのほとんどを内製でシンプルにコンテンツ化しています。それが全世界に展開され、システムとして効力を発揮し続けていることは、他にはない特徴的な強みだと思います。
日々トレーナーを中心にメンバーが物事の捉え方と向き合い、何が問題なのかフィードバックしてアップデートしていくボッシュのシステムは、今後AIと共存しながら仕事をしていく中でも活用できるはずです」
トレーナーの視座から、技術発展の未来に展望を抱く和田。その希望の先にあるものをビジネスにも活かしたいという目標は、社内の新規事業アイデアピッチイベントへの参加につながっています。
和田 「トレーナーという肩書には先生のようなイメージが強くありますが、私自身はトレーニングを自分自身の学びの場だとも思っています。チームの一員として課題を解決しながら学んだ知識や経験を、今後は新しいビジネスという形で日本から発信したいですね」
主体的に楽しめるエンジニアリングを広めるために、学び、模索し続ける和田。ボッシュのシステムから生まれたシンプルな思考の先に導き出される答えは、まだ見ぬ未来の開発現場の課題を解決していくのでしょう。