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日本のボッシュ・グループ

AIテクノロジーのさらなる拡大を図る、ボッシュの現在地

#AI #IoT #技術力

さまざまな産業分野で導入が進められ、世界的に注目を集めているAI。自動車技術をはじめとした多様なテクノロジーを展開するボッシュでも、AI技術の導入が進んでいます。ボッシュが進めるAI活用のビジョンとは?AI研究に取り組む中里 研一が語ります。

2025年までに全商品にAI技術を。ビジョン推進の中核を担うAI研究チーム

CES2020でAIビジョンを語るボッシュCTOのミヒャエル・ボレ
▲CES2020でAIビジョンを語るボッシュCTOのミヒャエル・ボレ

ボッシュはIoTカンパニーとして、AIを活用していくにあたりビジョンを掲げています。

中里 「CES2020というカンファレンスにおいて、当社のCTOミヒャエル・ボレは、2025年までに全商品に対してAIを導入、もしくは活用するというビジョンを掲げました。同時に今後2年以内にAIに精通した従業員を2万人まで拡大することを宣言しています。これは、ボッシュがIoTカンパニーを目指していく上でAIを中核技術として続けていくのだと私は理解しています」

ボッシュにはAI活用における倫理指針として、「人々に影響を及ぼすAIの意思決定に関しては、人間が最終判断をくださなくてはならない。むしろAIは人々のための道具として用いられるべきである」を掲げています。

中里 「倫理指針にある通り当社は、AIはあくまで人の道具であって、人がコントロールしなければならないということを強く主張しています。日本人にありがちな、思考し自主的に動くロボットというイメージとは大きく異なるといえるでしょう」

こうした倫理指針の上で、ボッシュでは多様な形でAI技術が活用されています。

中里 「ボッシュで活用されているAI技術としては、自動運転に関わるものが多くあります。自動ブレーキやエンジンなどでの活用が多いです。また、工場の生産現場における部品の検査、医療検査機器の最適化、データ解析など、活用されている分野は多岐に渡ります。

具体的にひとつお話しすると、大手総合建設会社の清水建設株式会社と取り組んでいる実証試験があります。土木工事に用いる長距離ベルトコンベヤの不具合予兆を検知するシステムの構築です。ボッシュの「TRACI」というIoTセンサーなどをベルトコンベアにとりつけ、データの取得および解析を行います。それにより、異常を自動で検出し、工事現場における省人化および故障リスクの回避を図り運用コストの低減を目標にして行なっています」

中里が所属するBCAI(Bosch Center for Artificial Intelligence)というチームは、ボッシュがAI導入を進めるにあたって中核を担うチームです。

中里 「私が所属するBCAIは、先に挙げたボッシュのAI活用ビションの実行を担当する主要な部署です。その中のリサーチチームに入っており、イスラエルのチームと一緒に基本的なアルゴリズムの研究と、その応用課題に取り組んでいます。同時に各種大学、研究所、他企業との交流を持って、共同研究関係を深めていくことも視野に入れ、取り組みを行なっています」

数学的・理論的アプローチを重視するボッシュのAI研究

AI導入を推進する中核チームBCAI(Bosch Center for Artificial Intelligence)のひとりである中里
▲AI導入を推進する中核チームBCAI(Bosch Center for Artificial Intelligence)のひとりである中里

中里はボッシュに入社するまでに、さまざまな分野の経験を積んでおり、それが強みになっていると話します。

中里 「学生のころは京都大学で航空工学や宇宙工学を学んでいました。人工衛星などは基本的にロボットにあたり、私のキャリアはロボティクスからスタートしています。そこで宇宙探査に使うような歩行ロボットの研究をしたのですが、歩行ロボットは生物を模倣するところがあって、生物や複雑なシステム一般に興味を持つようになり基礎的な科学の方に転向していきました。名古屋大学で複雑系科学の博士号を取得。分野でいうと統計物理学や理論物理学に取り組んでいました。

その後、より生のデータを扱いたいと思い、生物学の研究所へ。理化学研究所を経て、スタートアップ企業で働き、2020年現在ボッシュにいるという経緯です。データサイエンスやビッグデータブームと言われる走りの時代から常にデータを触ってきたキャリアといえますね」

データサイエンスの分野で広く活躍してきた中里ですが、ボッシュに入って驚いたことがあるといいます。

中里 「ボッシュに入社して意外だったのは、ボッシュのAIアプローチは予想以上に数学的で、理論的な背景を非常に重要視するところです。本当の意味での基礎研究を奨励されている印象ですね。ボッシュに魅力を感じた点でもあります。

基礎研究から進めるという意味ではGAFAMにも似たようなところがありますが、最大の違いは、ウェブデータではなく産業関連のデータを軸にしていることです。ボッシュほど多く産業関連のデータを持っている企業はおそらくないでしょうし、これがボッシュのAIの最大の武器になってくるかと思います」

そのようなボッシュの環境の中でAIに取り組むためには、プログラミングと数学のスキルが求められるといいます。

中里 「一般的な観点からいえば、プログラミングスキルは必要になるでしょう。ウェブ上に散らばっているライブラリーや最新の情報を身に付け、実践できることが要求される場面が多くあります。とくにボッシュという視点で言えば、数学的、理論的なところを重視しているので、数学的な背景があれば有効に使えると思います」

AIに精通した従業員を2万人に。ボッシュが進めるトレーニングプログラム

日本のBCAIでは、積極的にインターンシップに参加したい学生を世界中から募集
▲日本のBCAIでは、積極的にインターンシップに参加したい学生を世界中から募集

今後2年間でAIに精通した従業員を全社で2万人に増やすというビジョンを実現するため、グローバル規模でトレーニングプログラムの実施を予定しており、日本でも実施に向けて動いています。

中里 「BCAIチームで、AIに関するトレーニングコースを作成しています。幅広い層に向けたコースと専門性の高いトレーニングコースの2種類に分かれており、各国に認定トレーナーを置いています。すでにドイツでは展開が始まっており、世界全体に向けて順次展開の予定です」

中里の部署では従業員向けのトレーニングだけでなく、積極的に学生インターン生の受け入れも行なっています。

中里 「通常のインターンシップは半年から1年の期間で受け入れを行なっています。国際的に募集をかけているので、海外の学生が主なメンバーになります。幅広いバックグラウンドを持った方を受け入れているので、基本的にはヒアリング結果に合わせ、その人の強みを生かして伸ばせるようなテーマを設定して進めてもらっています。

自主的に仕事を進めてもらう中で、新しくやりたいと提案される内容やさまざまなアウトプットされる情報は、私達にとってもいい刺激になったり、知識のメンテナンスになったりと、相互にプラスになっているように感じています」

3ヶ月から1年程度のスタンダードインターンシップだけではなく、1ヶ月ほどの期間で、実際の業務を合わせてメンターと共に経験できるシーズナルインターンシップも実施しています。

中里 「昨年のサマーインターンでは、カードゲームAIの開発をテーマにしました。プレイを通じて学習させていく、いわゆる強化学習AIを開発するものです。ちょうどプログラミングをするにも手ごろでしたし、ドイツで賞を獲得したゲームだったこともあり採用しました。

サマーインターンは日本の学生さんが中心なので、当初は堅い方が多いのですが、だんだん慣れてくると自分で進められるようになっていきます。国籍を超えてチームメイトとの協力関係も進められ、異文化にも触れられる機会になっています。ひと月で学会発表できるところまで到達しており、今後も国際的なトップカンファレンスに積極的に参加することを目標としています。大学での経験よりも緊張感のある少し集中度の高い仕事ができているのではないでしょうか」

応用課題の研究やインターンの受け入れなど、ボッシュでAIを軸に業務に取り組む中里のやりがいは自身の興味以外の発見があることだといいます。

中里 「応用課題に取り組んでいると、現場や社外から入ってくる課題や技術がたくさんあり、これまで知らなかったものに遭遇する機会が多いです。私の経験上、研究中は自分が興味を持っていることを中心に考えてしまいますが、外から持ち込まれてくる新しい情報には興味深いものがあるので、飽きが来ないというのが重要なポイントだと思っています。

単純に研究しているだけだと、使いみちのないものを結果的につくり出してしまうこともありますが、ボッシュにいると人と社会に役立つ実用されるものを研究していけると思っています」

産業向けAIの拡大に向け、3つの柱を強化

産業向けAIの拡大に向け、3つの柱を強化

BCAIとしては産業向けAIがひとつの課題になってくると、中里は今後のビジョンを語ります。

中里 「GAFAMとの差別化という点からいっても、機械的な対象物にフォーカスしていくのがボッシュのひとつの柱になってくると考えています。またボッシュに限った話ではありませんが、今後AIの導入に伴って、モノを売るのではなくサービスを売る、いわゆるサービス化が促進されてくると考えています。

その上でBCAIとして、リサーチチームとして掲げているのは、安全であること。ロバストであること。説明可能であること。この3つが柱になっています。ロバストというのは、今のディープラーニングというのはちょっとした入力の変化に対して、全然違う反応を返すことがあり、それを阻止する仕組みのことです。またなぜうまくいくのかを説明できなければお客様の信頼は得られません。そのような意味で説明できることは重要です。こういった課題は根本的な問題と考えられているので、まず解決していきたいというのがチームの方針です」

ボッシュとして、チームとして取り組むためにも、中里自身もさらに探究を続けていくといいます。

中里 「私個人の今後というと、基礎学習そのものをより理論的に、数学的に理解していくことが課題になります。今まで経験的にトライ&エラーを重ねてつくっていたAIは、より数学的な理論をもとに合理化されていく時代に入っていくでしょうし、機械学習の高度な自動化も可能になってくるでしょう。

まずしばらくはそういった部分でより想像力を使った挑戦的な課題が最も求められると考えています」

ボッシュの強みである産業向けAIの拡大に向け、日々の課題へ取り組む中里。自身の経験を生かしながら実直な研究を続ける中里とボッシュの挑戦は続きます。

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