予測不能な世の中に適応できる人材育成を!ボッシュ・トレーニングセンターの取り組み
#教育 #研修 #学習 #マネジメント #自主性
世界7拠点に独自のトレーニングセンターを構え、全世界のボッシュ・グループの人材育成に力を入れているボッシュは自社を“ラーニングカンパニー”と定めています。今回、日本のボッシュ・トレーニングセンターでマネージャーを務める高原 美香と研修の企画・運営に携わる朝倉 早苗が、ボッシュの研修について語ります。
従業員自らが学ぶラーニングカンパニーを目指す
グローバル化や多様化が進み、「VUCA*ワールド」と呼ばれる予測不能な世の中になっている現在。ボッシュでは、その変化に合わせて、従業員が新しいノウハウや知識を身につけていく必要があると考え、さまざまな研修を行っています。
朝倉 「ボッシュでは、従業員一人ひとりが自ら学ぶ“ラーニングリーダー”になることで、その集団である“ラーニングカンパニー”をつくることを推し進めています。
この考えは、創業者であるロバート・ボッシュが23歳でアメリカに渡ったのち、エジソン・マシン・ワークス社に入社し、発明家のトーマス・エジソン氏と仕事をした経験から生まれたものです。そのときに彼が、『本人が、自らモチベーションを持って学ぶからこそ、知識やノウハウが身につく』と強く実感したことから始まっています」
ボッシュは、本社のあるドイツをはじめ、世界7カ所に独自の「ボッシュ・トレーニングセンター」を設立。提供しているプログラムは、年間200講座・400セッションにもおよびます。
高原 「一般的には、上司から勧められて研修を受けるケースが多いと思います。しかしボッシュでは、従業員が自分で上司に申請して受講しに来ることが非常に多いです。研修は、就業時間内だけでなく、自己啓発研修のような時間外で受けられるものもあります。自宅でも受講できるよう、オンライン化やeラーニングの導入も進めています」
昨今の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、受講できるトレーニングに一部制限が出てしまっているのも、オンラインへの移行を急ぐ一つの要因になっています。オンライン化が進むことで、これまで自由に参加ができなかった遠方の従業員も時間と場所の制約に捉われず、気軽にトレーニングに参加ができるようになります。
ボッシュトレーニングジャパンを統括する高原は、自分たちの役割を「“学んでいく文化”をサポートして、会社全体の変革に寄与すること」と語ります。
高原 「私はマネージャーとして、全世界で同じ共通認識を持って研修を提供できるように、全地域のボッシュ・トレーニングセンターのマネージャーと日々情報交換や議論を行っています。近年はとくに、中国やASEANとの連携を強化しており、国境を越えて一緒にプロジェクトを遂行しています」
朝倉 「私の役割は4つあって、担当分野における研修の企画運営、デジタルトランスフォーメーションに関する研修の実施。そして、“ラーニングコンサルタント”としての役割。これは、2020年4月からスタートし、各事業部や子会社が必要としている研修や学習の相談を受けたり、コンサルテーションを行います。
また、トレーニングセンターをより社内の従業員に使ってもらえるようなプロモーション活動やマーケティング活動も行っています。
私自身が研修を受ける側だったころは、どこにコンタクトしたらいいのか分からないこともあったので、そういったユーザー目線を今の業務に生かしています」
*「VUCA」とは、“Volatility(変動)”、“Uncertainty(不確実)”、“Complexity(複雑)”、“Ambiguity(曖昧)”の頭文字を取ってつくられた言葉。
世界共通の研修から日本独自のものまで、 ボッシュならではの研修を企画
ボッシュ・トレーニングセンターの研修はすべて、基本的に会社の戦略と結びついています。戦略を遂行するために必要なコアコンピタンス(成果を発揮するための知識と技術やノウハウなどの能力)は何か、それを身につけるためにどのような研修が必要かを考え、企画・運営しています。
高原 「“コーポレートスタンダード”という、従業員として世界共通で持っておくべきコンピタンスに対する研修に関しては、ボッシュグローバルでドイツ本社が企画しています。日本独自の研修に関しては、日本の全体戦略や文化を基に、それぞれの事業部やグループ会社と連携しながら、研修コンテンツをつくっていきます。
ボッシュの研修は、社員が講師となって提供しているものが多いのも特徴です。内部事情を知っている人が講師を務めることで、実務に使える具体例を出しながら伝えられる点も強みですね。また、内部講師自身の人材育成にもつながり、全社的なコンピタンスの底上げにもなります」
世界共通の研修を受けられるのはすばらしいことですが、一方で、研修を企画していく上での難しさもあります。
朝倉 「世界共通の研修が、日本の文化や状況、法律などと合わない場合もあります。また、資料の写真や言葉も日本の感覚からすると理解しづらい場合は、補足しなければならないことも。それらを、ドイツ本社と確認しつつ調整していくのがなかなか難しいですね」
年間200もの講座が用意されているボッシュですが、世の中的にも注目度の高いテクノロジーに関する研修に人気が集まっています。
朝倉 「グローバルでDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますので、日本でもAIやIoT関連の研修はとくに力を入れています。そういった先端テクノロジーについて学びたい方は増えていますね。エンジニアの方がそうした内容を受講できる学習サービスの導入もしています。
続々と新しいオンライン学習サービスも導入しており、たとえば、ご自身のソフトウェアに関するスキルなどを測定しながら、自分に合ったオンライン学習ツールを選択することが可能です。」
研修を問題解決や変化のきっかけに
高原 「ボッシュでは、それぞれの部署で従業員の研修費を予算として確保しています。その上で、年度の面談で『今年はこの研修を受けて、この能力を身に付けてほしい』と上司から提案したり、部下から『この研修を受けて、スキルや知識を身に着けたい』と希望を伝えたりするしくみです。
また、自身の希望で業務時間外に学習できるeUniversity(オンライン学習ツールの総称)や、語学研修で会社が受講費用の一部を負担する『自己啓発教育補助金制度』もあります」
数々の研修の中でも、受講者からの反響がとくに大きいものがいくつかあります。その一例として、入社1年以内に受講するように定められている必修研修の一つを紹介します。
朝倉 「ボッシュの歴史や理念、創業者などについて学ぶ1日研修です。その研修は、最後に上層部役員や先輩社員が出席して、Q&Aセッションの時間を設けています。通常ではなかなか会えない役員や先輩社員と対話できますし、みなさん率直に答えてくれるので、入社したての参加者のモチベーションをあげて研修を終えてくださいますね」
入社して1年以内の方が、この研修を受けることで変化が見られるのだそうです。
朝倉 「研修ではオープンに意見交換をするので、『質問していいんだ』というフラットなカルチャーを肌で感じ、意見を出しやすくなるようです。また、『まずは自分が声をあげてキャリアをつくっていくものだ』というボッシュのしくみや、組織風土を学ぶ人も多いです。そのため、ネットワーキング(人脈づくり)や、イントラネットを活用して情報収集や情報発信をするようになるなど、徐々に行動の変化があるようです」
高原 「一度の研修で、何かを大きく変えられるわけではありません。しかし、何か問題を解決し、変化していくきっかけや気づきになるといいなと思っています。その機会をつくっていくことが、私たちの使命です」
そういった“変化”は、決して新しく入社した人たちだけではありません。
高原 「ボッシュでは、管理職や管理職候補に向けた研修も行い、部下に対するコミュニケーションの図り方や対応の仕方についてのセッションなどを行います。そうすると、それを部署で試してみる方が多いようで、『対応を急に変えすぎて部下から警戒された』といった話も聞きます(笑)。でも、『試してみよう』と思ってくれることがとても重要なのではないでしょうか」
また、ボッシュの研修は、ワークショップ形式や対話を生むようなインタラクティブな研修がコンセプト。
高原 「普段は事業部ごとで業務を進めることが多いため、意識をしていないとどうしても横の繋がりを持つきっかけづくりが難しく、縦割りになってしまう部分は出てくると思います。
しかし、研修はコミュニケーションを取りながら進めるため、研修で出会った人とのネットワークも業務に生かされているようです。ランチタイムに短時間且つ、無料で参加できるセッションとして“ブレインスナック”も随時開催しています」
朝倉 「最近は、研修に参加した人や、その研修に興味がある人が集まってコミュニケーションを取れるようなプラットフォームを準備しました。たとえば、AIに関する研修についてのチャンネル“AI Channel”をTEAMS上につくったら、その研修を受けた・受けていないにかかわらず興味がある従業員が日本だけでなく海外からも参加して100名以上のコミュニティになっています。
そこではAI関連のトピックやトレーニングの情報が更新され、情報交換できるようにしています。そうすることで、同じトピックを横軸に、さまざまな世代の、いろいろな事業部の方との交流が生まれます」
現場に寄りそった研修で、VUCAワールドに対応できる人材開発に寄与したい
高原と朝倉は、トレーニングセンターで研修コンテンツを日々提供することで感じているやりがいを次のように語ります。
高原 「ボッシュは、人材開発に非常に力を入れている会社です。そのため、上層部からの力強いアドバイスやサポートを受けながら、研修計画や戦略を立てています。また、どうすればみなさんにより良い研修を提供できるか考えるのは、とてもやりがいがあります」
朝倉 「私も、みなさんの人材開発に貢献できるところにやりがいを感じています。研修を受けた方から『開催してくれてありがとうございます』といった声を聞くと、やってよかったなと思います。みなさんのモチベーションをあげるお手伝いができたり、気づくきっかけを提供できたりするのは嬉しいですね」
新たに「ラーニングコンサルタント」がスタートしたことで、ボッシュ・トレーニングセンターの役割は、よりいっそう大きくなっていくことでしょう。
高原 「今後はより社内のニーズを掴んで、それをダイレクトに研修や学習ツールに反映させていけるような、みなさんの身近な存在になっていきたいですね。また、今まで以上に過去の受講データをフル活用し、それらを分析した上で、従業員のニーズにマッチした研修や学習ツールを提供していけたらと思っています」
これまでも創業者ボッシュの想いを脈々と受け継ぎ、ラーニングカンパニーとして取り組んできたボッシュ。これからも時代の動き、そしてボッシュ社内の声をしっかりと捉えながら、今後ますますの正解のない複雑性を増すVUCAの時代に柔軟な適応ができる人材を育てていきます。